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『海』(小川洋子)について
この本は
- 海
- 風薫るウィーンの旅六日間
- バタフライ和文タイプ事務所
- 銀色のかぎ針
- 缶入りドロップ
- ひよこトラック
- ガイド
の7編からなる短編小説集です。
小川洋子さんの作品は、『偶然の祝福』同様、独特な世界観があって、正直変な話、奇妙な話が多いです。
この『海』という短編集では、20歳の女性と60代半ばの未亡人とか、少女と初老の男など、年齢差のある人間たちの交流が描かれています。小学生が面白いとか楽しいと思えるような作品ではないですが、こういった独特な世界観を感じながら、登場人物の像を思い浮かべることができ、登場人物の気持ちがわかるか、ということを入試問題では問われます。
出題された「ひよこトラック」や塾のテキストにも掲載されている「海」など、いくつか読んでおくといいでしょう。(「バタフライ和文タイプ事務所」は出題されないと思うので、読む必要はありません。)
(「海」「ひよこトラック」の詳しいあらすじを読みたい方は一番最後に。ネタバレになりますので、読みたくない方はご覧にならないでください。)

『海』が中学受験で出題された学校
2015年度第1回浅野中学校の国語の入試問題で出題されました。
ちなみに、高校受験ですが、2009年度法政大学第二高等学校の国語の入試問題にも「ひよこトラック」が出題されています。
2015年度第1回浅野中学校の国語の入試問題
大問1番で「ひよこトラック」が出題されました。大問2番は論説文、大問3番は漢字の読み書きです。
大問1番の設問形式は、語句の問題が1問、4択の記号選択問題が6問、字数制限ありの記述問題が1問、5択から正しいものを全て選ぶ選択問題が1問でした。
最初に、前半の内容がリード文で記され、後半部分が文庫で約11ページ分出題されています。母親が死んだ後話すことができなくなった少女と、ホテルのドアマンをしている孤独な男の交流についてのお話です。
浅野中学校の国語の出題傾向
浅野中学校の国語の入試問題は、ここ数年漢字1題、物語文的文章1題、説明文的文章1題の構成になっています。
設問形式は、4択の記号選択問題がほとんどで、20〜40字程度の記述問題が数問出題されています。物語的文章も説明的文章もどちらも設問数は問8か9までとなっていますが、どちらの文章も長いです。50分でしっかり読むには、スピードが必要です。
時間さえあれば、記号選択問題はそれほど、悩ませる問題ではありませんが、選択肢の文章も長いため、時間がなくて慌ててしまうと間違ってしまいます。選択肢の文章が長いというのは、ある意味、間違いを探しやすいということでもありますので、おかしいと思ったら、その部分に線を引くなどチェックを入れて、✖️をつけ、消去法で考えられるようにしていきましょう。
また、この小川洋子さんの作品のように、少し難しめの小説にもチャレンジしておいた方がいいでしょう。下記の記事を参考にしてみてください。

「海」あらすじ(ネタバレ)
僕と泉さんは、学校の先生同士のカップルで、僕は泉さんの実家に結婚の承諾を得るために訪問する。泉さんは途中乗り物酔いで具合が悪くなりながら、実家に到着すると、家族に歓迎されるも、なかなか会話は弾まず、泉さんは気分も良くないせいか、場を取りなす様子もない。
夜、泉さんは自分が使っていた部屋で、僕は、21歳の弟と同じ部屋で休むことになる。弟とは一度も口をきいていなく、僕は気が重かったが、弟は部屋にあるぬるいサイダーを出してくれて、寝る前に見るという動物のビデオを一緒に見る。
弟は楽器奏者だと言うが、部屋に楽譜とか譜面台とかそれらしきものは見当たらない。演奏する楽器を問うと、鳴鱗琴(メイリンキン)という楽器だと。海からの風が届かないと鳴らない、ザトウクジラの浮き袋に鱗が張り付けてある楽器だという。弟が発明した楽器で、弟が唯一の演奏者なのだと。弟は鳴鱗琴を持っているかのように吹いて見せ、眠りについてしまう。
「ひよこトラック」あらすじ(ネタバレ)
ホテルのドアマンをしている定年間近の男は、70の未亡人が6歳の孫娘と2人で暮らす一軒家の2階に下宿することになった。男が少女に話しかけても少女は何も言わない。少女は、以前は普通に喋っていたのに、母親が亡くなって祖母と暮らすようになったその日から口をきかなくなってしまったというのだ。
ある日、少女と男の前に、古ぼけた軽トラックが、たくさんのカラフルなひよこを乗せて走り過ぎた。少女と男の視線が合い、少女はひよこだったよねと男に確認しているかのようだった。その後、男が夜勤明けで帰宅すると、少女が待っていて、男にせみの抜け殻を渡した。次は、ヤゴの抜け殻、カタツムリの殻と…男の部屋の窓辺には少女が持ってきた抜け殻コレクションでいっぱいになった。2度目にひよこを乗せたトラックが走ってきたときも少女は男の部屋にいた。
3度目にひよこトラックが近づいきたとき、少女は階段を駆け下りた。すると、トラックは農道を外れ、木にぶつかって横転したのだ。荷台に乗っていたひよこたちが出てきて、ひよこでいっぱいになっていた。そのとき、少女は思わず声を出していた。ひよこたちを車に轢かれないように誘導するために。