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『羊と鋼の森』(宮下奈都)について
2016年第13回本屋大賞を受賞した小説で、2018年6月に山崎賢人主演で映画も公開されました。調律という仕事の奥深さを知り、外村という青年の仕事へのひたむきさを感じ、小説全体を通してピアノの音が聴こえている、別の世界を体験したような読後感でした。
この『羊と鋼の森』は外村という青年が調律師として成長していく姿が淡々と描かれていて、そこにお客さんである双子の姉妹がどうピアノと向き合っていくかという伏線が絡んできます。人生考え始める高校生以上、どちらかというと大人向けの作品です。が、いきなり2018年度筑波大学附属駒場中学校で出題されました。小学生が読むにはあまり向かないと思いますが、ピアノ好きなら、興味を持って読めるかもしれません。
(このあとの詳しいあらすじを読みたい方は一番最後に。ネタバレになりますので、読みたくない方はご覧にならないでください。)
宮下奈都さんの小説は『よろこびの歌』『終わらない歌』の方が若い世代向けです。小学生が読んでみるなら、『よろこびの歌』の方をおすすめします。


『羊と鋼の森』が中学受験で出題された学校
2018年度筑波大学附属駒場中学校、2020年度青山学院横浜英和中学校A入試の国語の入試問題で出題されました。
2018年度筑波大学附属駒場中学校の国語の入試問題
大問1番で出題されました。
調律師の外村がある青年の家に仕事で訪れ、笑みもなく視線が合うこともない青年が、調律し終わったピアノに触れて、やっと笑みを取り戻すという場面が出題されました。
2018年の筑波大学附属駒場中学校の国語の問題は漢字以外全て自由記述の問題でした。この大問1番の設問は、「〜とはどういうことですか。」が2問、「〜気持ちが読み取れますか。」が2問で全部で4問でした。ちなみに、大問2番が論説文、大問3番が漢字、大問4番が詩の出題でした。
筑波大学附属駒場中学校の国語の出題傾向
筑波大学附属駒場中学校の国語の入試問題は、2019年度は、随筆1題、漢字1題、詩と詩についての説明1題の構成で3題でしたが、2018年度までは、物語的文章1題、説明的文章1題、漢字1題、詩1題でした。
設問形式は、ほぼ全て自由記述の問題です。文章量は多くないので、時間に困ることはありませんが、逆に文章中のヒントが少ないため、自分の言葉で書かなければならない点が難しいでしょう。
詩の問題の練習と自由記述対策が不可欠です。
2020年度青山学院横浜英和中学校A入試の国語の入試問題
大問5番で、文庫で約9ページ半出題されました。外村が先輩の柳さんと一緒に初めてふたごの姉妹の家に調律に行った場面です。
この大問5番の設問形式は、4択の記号選択問題が3問、3つの空欄に5択から補充する問題が1問、5択の記号選択が1問、抜き出しが1問、自由記述が1問、4つの空欄に姉か妹かを補充する問題が1問で、全部で8問でした。
大問1番が漢字の読み書き、大問2番3番が語句の問題、大問4番が説明的文章で、大問5番まででした。
『羊と鋼の森』あらすじ(ネタバレ)
北海道の山村の高校生外村は、ある日先生から、先生たちが会議中の間、来客を体育館まで案内するように頼まれる。そのお客さんは、体育館のピアノを調律する調律師だった。外村は調律が何なのかも知らなかったが、この板鳥という調律師との出会いが後の外村の人生を決定づける。
ピアノの音に魅せられた外村は、高校卒業後、初めて北海道を離れて、本州の調律学校に2年間通う。そして、卒業し北海道に戻り、板鳥さんのいる楽器店に勤めることになる。半年間は業務研修で、7年先輩の柳さんと一緒に仕事に回る。初めての仕事は、ふたごの姉妹の家だった。姉和音は静謐なピアノ、それに対して妹由仁は生き生きとした色彩のあるピアノを弾く。柳さんが妹由仁のピアノを気に入っていたのに対し、外村は初めから和音のピアノが好きだった。
外村は調律が上手になりたい一心で、お店のピアノを毎日調律しながら研修期間を過ごし、2年目に入ると、少しずつ一人で任されて仕事をするようになる。そんなある日突然、双子の家から調律キャンセルの連絡が入る。理由は、ピアノを弾けなくなってしまったということだった。しばらくして、由仁がお店にやってくる。他に支障はないのに、ピアノを弾くときだけ指が動かなくなってしまう病気ということだった。由仁は自分でだいぶ元気になったと言っているが、和音は弾けるのに弾かなくなってしまって困っているということだった。それからしばらくして、やっと調律再開の連絡をもらう。そこには、もうピアニストになると決心した和音がいた。そして、由仁は和音のピアノを調律したい、調律師になりたいと。
外村はピアニストになると決めた和音のためにピアノを調律することで、調律が少しずつ良くなっていく。そして、柳さんが結婚することになり、その披露宴で和音がピアノを弾くことになる。そのピアノの調律を任されたのが、外村だ。披露宴会場で、外村は調律を始める。誰もいない会場で和音の弾くピアノをイメージして調律し、和音も満足のいく音になるが、その後、披露宴会場に、人がだんだん入ってくると、ピアノの響きが一気に変わってしまう。そこで、以前に見た板鳥さんのコンサートホールの調律を思い出し、フロアの隅々まで音が広がるようにまた調律し直す。なんとか披露宴までに響きを取り戻し、和音のピアノは祝福の声となって会場に響き渡る。